「葡萄畑は痩せた土地がいい」
先日まで自分の頭はこんな考えがあった。
目の前に広がる光り輝く日向灘。
宮崎県都農にある高台にある都農ワイナリー。
今、日本中から注目を浴びている国産ワイナリーの1つである。
お恥ずかしいことながら、ワインといったら山梨という知識しか持っていなかった自分にとって、宮崎でワインときいてもピンとこなかった。
宮崎は毎年、台風の猛威にさらされる場所である。強風に大雨と半端ない過酷な地のしかも高台!? そんな場所で葡萄つくりとは、いったいどんなからくりがあるのだろうと、その興味が強かった。
ワイナリーを訪れて、すぐに畑に……と思いきや、まずは近くにあるクヌギの林に通される。クヌギ林とワインにどんな意味があるかと思いきや、土と木のバランスについて教えてくれたのが赤尾誠二さんである。
「このクヌギの林って土の香りが強いと思いませんか?」
確かにこの林に足を踏み入れたときから、土の香りがかなり強いことに気づいていた。
フレッシュと表現すべきだろうか。
みずみずしさがある土の深い香り。
それは小さい頃、どろんこになって遊んでいたときによく嗅いでいた匂いにそっくりで懐かしいものであった。
「ここにはクヌギの木が100本生えています。この100本という数が実は大事です。ここの土はふかふか。この土は団粒土で、腐植の分解過程でできる土壌です。ふかふかした土はこの団粒構造をもち保水性と排水性があり通気性もよく、保肥力も持つ多様な機能を持つ土壌となります。 この林はクヌギの落葉が虫や微生物によって分解され土になっているのです」。
クヌギの落ち葉を掘ってみると、落ち葉が黒く腐葉土化している腐植がみられ、小さい虫や動物、 変形菌などの原生生物、 カビなど多くの土壌生物たちも目にすることができた。本能がこの土は最高で上質だということがわかる。この土壌に育つクヌギは幸せだろう。自然のサイクルがうまく回っている安定した健康な土だ。赤尾さんがここで教えてくれたのがいかに土壌、土が大事であり、土の環境がいいほどよい植物を育てることができるというもの。
「誰でもここはいい土地だとわかりますよね。例えばこのクヌギが高価な品だと、人は生産性を高めようとクヌギの木を増やそうとする。するとどうなります? 100本あった場所に200本を植えるとギュウギュウの満員状態。100本のクヌギには十分に効率よくまわっていた土壌の栄養は、200本になると半分。1本1本それぞれ健康育ちません。
倍に増えたことによって落ち葉も増え、土壌生物が喜ぶから土壌ももっとよくなると考えるかもしれませんが、それは人間の浅はかさ。土壌生物も私達と同じ、食べ過ぎると病になる。キャパを超えた落ち葉は食べ尽くせず、分解されずどんどん溜まるだけ。またクヌギの木をギュウギュウに植えたことで、根の部分、土壌に太陽の光りも当たらなくなり、土自体が不健康になります。
こうなるとどんなにいい土壌であってもあっという間に栄養不足となり、もともとあったクヌギもやせ細り、葉の数さえ少なくなる。木の数が増えたのに、餌となる葉が少なくなると土壌も影響が出ます。これが団粒土(構造)から単粒土(構造)になってしまう流れです。どんな土でもこの流れはあります。ここ土壌も少し深く土を掘ると単粒土がある。地表近くの土壌より、土壌の中の空気や水分、有用微生物の関係が悪い。けれど100本のクヌギが毎年その単粒土の上によい葉を落とし、団粒の土壌ができるおかげでここは常に健康で元気な土地を保つことができているのです。これはどんな場所でもいえます。葡萄畑も同じ。
いい土壌でなくてはいい葡萄は育ちません。葡萄栽培には痩せた土地が向くというのは実は間違いなのです」。
思わず顔があがる。
クヌギ林の強い土の香りが鼻に飛び込んでくる。
痩せた土地では葡萄は育たないという赤尾さんの言葉が、自分の頭のなかに深く突き刺さった。
<続>
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DATA)
名称:都農ワイナリー
住所:宮崎県児湯群都農町14609-20
電話:0983-25-5501
営 :09:30〜17:00(カフェ 11:00〜16:00)
休 :年末年始(カフェ 火)
URL: http://www.tsunowine.com
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